サブリミナル白昼夢

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【わたなれ 6・7巻】今年の漢字は"妹"で決定です 前編【感想・考察】


わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ! (※ムリじゃなかった!?) 6

 

みなさま、お久しぶりです。

え゛ッ……!  わたなれの感想考察書くの、1年ぶりってマ……?  本当にすみません……。6巻と7巻をようやく読みました。

最近いろいろと忙しくて時間が取れず、前後編となってるなら後編発売してから一気に読んだほうがいいかな? ということで積んでました。6巻は発売当時、特典SS付きで買ったのに!

今回は考察といいつつ、感想メインとなります。
書いていたら文章量が2万字となってしまったため、前半と後半で分けています。

既刊7巻あるガールズラブコメの世界に狂わされたオタクの熱量感想でしか摂取できない栄養ってのもたぶんあると思うんですよね。あるかな? あったとしても摂取しないほうがいいよ、そんなおなかに悪そうなもの。

 

さて今回フォーカスが当てられたのは、紫陽花さんとキスまでして自己肯定力爆上がり中の甘織れな子!

ではもちろんなく、そんな不出来な姉を真っ当な道に戻した立役者、甘織遥奈! 主人公より主人公してる! ヒュー! 実質主人公!☆

というか、スキップできない甘織れな子は遥奈に交代してもらったほうがいいんじゃないか? アニメがはじまったらオープニングとかどうするんだよ。地上波でスキップできない醜態を晒すつもりか? れな子?

さっそく話が逸れました。アニメ化についてですが、突然の発表に驚いて限界化した私は、信頼できる百合オタクたちに助けを求め(なんで?)、スペース配信を開きましたので下記を見てください。わたなれミリしら百合オタクへの布教には成功しました。紫陽花さん編で情緒をかき乱されたようです。やったね。

※ここからは小説6・7巻のネタバレしかありません。

 

 

普通の姉妹の百合とは

前評判では「姉妹同士の生々しさがすごい!」と聞いて、たしかに仲が悪いわけではなさそうだったけど6巻ではけっこうギスギスしたり、つかみ合いの大喧嘩したりするのするのかな(れな子勝てなそうだな……)とビクビクしていました。

実際に読み進めてみると、たしかに甘織姉妹はイチャイチャするような関係ではなく、いたってありきたりでどこにでもいそうな姉妹仲。
売り言葉に買い言葉が日常茶飯事で、だけど一晩経てばまた元に戻るような普通の(だけどその普通がたぶん一番難しい)姉妹だと思いました。

れな子と遥奈、二人の間に恋慕のような情はないとは思いますが、普通だけど当たり前じゃないなにか特別な「家族への情」のようなものが描かれていると確かに感じました。

 

甘織遥奈の不登校からはじまった6~7巻の騒動、テーマはもちろん「姉妹」です。
二人は小さい頃からずっと一緒に育ってきた血を分けた家族であり、家族の絆の中でも兄弟姉妹は特に身近な存在と言えるかもしれません。

家族とは血の繋がりもありますが、それよりも相手の人生にどう関わってどう影響し合ってきたか、積み重ねてきた時間の長さや濃さだと私は認識しています。だからこそ兄弟姉妹は特に身近な存在となり得るのかもしれません。

そんな、離れたいのに離れがたい深く結びついた姉妹の絆というものが描かれたのが6巻と7巻だと言えます。

 

甘織姉妹が向け合うモノ

では、彼女たち甘織姉妹の姉妹百合とはいったいどういうものだったのでしょうか?

まず最初に彼女らには、お互いへの敬意と信頼の気持ちが一定数あるのが作中で繰り返し伝わってきます。


わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ! (※ムリじゃなかった!?) 6 より
いがみ合いつつも仲のいい姉妹なのが伝わってくる

 

 わたしは、たとえ妹がなにもできない凡々人だったとしても、その真人間な部分だけで、じゅうぶんな尊敬の念を抱いただろう。

 あるいは、どこかで信じていたのかもしれない。 

 姉が、もう一度、自分の力で立って歩こうとする日のことを。 

 だってお姉ちゃんは。 

 あたしの、お姉ちゃんなんだから。

 

これらのくだりからも分かるように、過去、幼少期から現在まで血の通ったコミュニケーションを行ってきたおかげで、紆余曲折ありながらも、姉は妹を信頼しその人となりと美点(欠点も)を理解している、もしくはつもりだとしても一定の自負があると考えているのが分かります。

また妹は、幼少期には姉への万能性を感じ、盲目的とも呼べる崇敬の念がありました。
しかし姉は壁にぶつかったことで自分の殻に閉じこもり、小さい頃に抱いていた想いはすべて幻想だったと軽蔑しつつ(それは姉に対してだけでなくそんな勘違いをした自分に対してもだったのかもしれない)、自分を愛してくれていた姉に対する情を捨てられませんでした。

そうしてお互いにつながりを捨てずに(捨て切れずに)いたからこそ、憎まれ口を叩き、いがみ合いながらもここまで禍根を残さずやってこれたのだと思います。
二人が互いに向けるのは憎らしいという感情だけではもちろんありません。向けられるのは愛情と、それだけではない特別な”何か”を感じさせます。

 

「いやあ、ご迷惑をおかけしました」

「いえいえ。かけられ慣れてますし」

「こんにゃろう」 

   憎まれ口を叩き合う。そんな今の妹に、あの頃のちっちゃい妹がダブって見える。

 

次に、愛憎についてですが、愛憎は基本的に同じベクトルにある感情で、切っても切り離せません。
そのため、愛と憎しみの感情が入り混じることはままあります。*1

『愛の反対は憎しみではなく、無関心』とよく言われますが、正確には『愛憎の反対は無関心』だと私は思っています。

(血の繋がりを問わず)家族と呼べるような、長く一緒に過ごした相手(特に兄弟姉妹)に対する情は、愛憎に近い”何か”があると思っています。
そういった家族には好きや嫌いと一言では言えない、愛憎が混じりつつもそれとはまた違う感情が生まれてくると感じるのです。

もちろん、あまりにも付き合い切れない相手には身内であれ絶縁状態になったり、関わりたくないと感じたり、無関心な状態になることもあると思います。

甘織姉妹のように禍根が残らない程度の喧嘩が多いというのは、コミュニケーションが活発であるためでそれはある意味健全で、不均衡で禍根が残るほどの衝突がたびたびあったり、絶縁状態であるならばならそもそも喧嘩すら起きないかもしれません。

そういった意味では、喧嘩しつつもすぐに仲直りできる甘織姉妹はとても仲が良いと思えます。

 

今回、姉妹は過去に絶縁一歩手前まで行ったことがあると明かされていますが、それを繋ぎ止めたものが「家族だから」という慣例的で無味乾燥なつながりではなく、れな子と遥奈の二人が積み重ねてきた関係と信頼、「(れな子は)あたしのお姉ちゃんで、あたしはその妹なんだから」という想い、「わたしは遥奈のお姉ちゃんなんだから」という想いと努力によって生まれている絆です。

それは彼女たちだけの特別な家族の絆と呼べるでしょう。姉に「妹のお姉ちゃん」という自負があるように、妹にも「お姉ちゃんの妹」であるという誇りがあるように感じます。

 

 わたしは後ろから聞こえてくる妹の泣き声を、どうしても振り切ることができなくて、回れ右をしたんだ。

 この期に及んで、自分はまだ、期待しているのだ。

 姉が、あの頃のようにまた輝くことを。立派な姉に戻ってくれることを。

 ひたむきに、鏡の中の自分を睨みつけて。まるで、彼女こそが宿敵であるかのように。

 幸せになってほしい。自分のために。

 姉は、自分の半身なのだ。

 

甘織姉妹は日々の中でたくさんの失敗をしてきたと思いますが、それでもお互いに影響を与え合って歩み続ける強さがありました。

それは、疎ましく思っていたはずの小さい妹を見捨てずに引き返したことだったし、大好きだったのに裏切り続けた姉が憎らしくもどこかで立ち直るのを信じていたことだったし、そんな妹の奮起を受けて部屋を飛び出し長すぎる前髪を切ったことだったし、そんな姉の決意を見て誓いを立てたことだったと思います。

 

 遥奈の未来が、これからが、ずっと、幸せであってほしい。

 姉妹っていうのは、とても家族には思えないほどに遥か遠く、そして、他人には思えないほどに近すぎる生き物だから。

 

終盤、れな子も遥奈も同じように、自分が幸せになるために半身である姉・妹(”遥か”遠くにあって近すぎる存在)の幸せを願って行動していたことが明かされます。

二人は鏡写しのようでありながら、まったくちがう人間です。だからこそ何度もぶつかり合います。人は(自分自身ですら)完全に思い通りになることはありません。

時には殺したいほど憎んだり、時には目に入れても痛くないほど愛おしいと思う存在。失敗や成功、苦しいことや嬉しいこと。喜怒哀楽のすべてを一緒に共有してきた、切っても切り離せない自分の半身。だからこそ自分のために幸せになってほしいと願う存在。

 

愛や憎しみだけでは言い表せない複雑な情。『姉妹の情』としか呼べないものが二人の間にあって育まれ、たしかにそこにあると感じました。

これはたぶん、物心つく前から一緒にいた姉妹が手にしていたプリミティブな感情。甘織姉妹が向け合う情を言語化するとこういったものになるかと思います。

 

遥奈がお姉ちゃんの首筋を噛んだワケ

ここまで甘織姉妹の二人について語ってきましたが、6・7巻の実質的な主人公である甘織遥奈個人について語っていきましょう。

 

遥奈、めちゃくちゃお姉ちゃんのことが大好きでしたね。

作中、まったくベタベタせずに姉の幸せを願う重度のシスコン妹をこんなふうに描けるものなのかと感心しました。作中ではほとんど、遥奈は姉と違って嘘をつくのが上手く、追及されても真顔で平然と真意を隠し通していました。

たとえば、7巻冒頭のれな子の追及である、

 

「……は、遥奈が……わたしのことを、好きだから……」

 

といった『荒唐無稽なたわごと』は奇しくも大正解だったわけですが、これも難なく躱しています。

いやまあ、こんな恥ずかしげも証拠も何もなく仮説だけ組み立てて、「わたしは妹に愛されてる!」みたいな中身スッカスカな主張をぶつけられたとしても、腕組みして光のない瞳で見下すことは難なくできるか。

れな子、もうちょっと紗月さんのように理路整然と推理して追及しないと。ムリか、ムリだな。(※ムリだった!?)

 

しかし、そんな中でもまれに本心が透けるときがあります。たとえば、このシーン。

 

「いやあ、そりゃあ……」

 妹は口をもごもごさせる。

 ……ん?

「え、なに?」

「なにっていうか……」

 まるで好きな人に『誰か好きな人いるの?』と聞かれた女の子のように、目を合わせようとしてこない。なに!? それどういうリアクション!?

 やめてよそういう思わせぶりな態度取るの! ドキドキしてくるじゃん!

「だってお姉ちゃん……だし……」

 

デートに向かう電車の中での会話では、このあと話を逸らすようにれな子がヴォルデモート真唯にフラレた(フラれてはない)話題を出していますが、ウラがあると感じつつもデートをオッケーしたのは、本当に姉のことが好きで遊びに行きたかったからだと思います。

動物園で子どものように(子どもなのですが)はしゃぎ、珍しくテンションが高い自然体な遥奈がめちゃくちゃ可愛いですね。ここらへんは、遊園地でテンションが上がってはしゃいでいたれな子とそっくりだと感じました。

姉がお風呂に誘ったときや同衾添い寝に誘ったときも「は?きも」と言って断らなかった遥奈を見ると、姉のことを本当に好きで受け入れていると率直に解釈できます。
想像ですが、一緒のベッドに入ったとき、れな子から今までの感謝をされた遥奈は、胸がいっぱいになって泣きそうになり、照れ隠しで顔を近づけて首筋を噛んだのだと行間を読みましたが、いかがでしょうか?

 

こうして全編を通して読んでみると、この姉妹はけっこう似ているとこがあると強く感じます。

一度こうと決めたら誰に何を言われようと突き通す意志の強さ、曲げない頑固さ。
自分が(姉のために)していることが台無しにされそうになったら「家を燃やす」と凄む気迫を見せたり、あれだけ拒否していた同窓会に(妹のために)乗り込んで場を支配し、昔のようなつまらない空気をぶち壊して帰る気概を見せたり。
頑固で勇猛、曲がったことが嫌いな性格はとても似ているように感じています。姉は倫理のハンドル曲げすぎて折れたの? ということをしていますが。

 

甘織遥奈の魅力を引き出したのは物語だけではなく、竹嶋えく先生の美麗なイラストと、挿絵の挿し込むタイミングのおかげだったとも感じています。


わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ! (※ムリじゃなかった!?) 6 より
昔とはまるで変わったけれど、変わらないものもある

6巻にて、泣きそうな幼いれな子と袖を掴み泣いている幼い遥奈のイラストは、二人が積み上げてきた時間の長さをあまりにも如実に描いていますし、そこかられな子をおんぶする成長した遥奈のイラストを見ると二人の会話に胸が熱くなります。親かな。

 

そして、なんといっても7巻終盤で明かされる過去。引きこもりをやめる決意をしたれな子と、その決意を見た遥奈がした誓い、洗面所の薄い壁を挟んだ場面。

文庫版ではイラストと文章が特殊な配置になっており、あたかも見開きで挿絵が文章を挟んで姉妹背中合わせのようになっているのが素晴らしいと思います。ここはぜひ文庫版を手にとって読んでほしい!

姉の立ち向かおうと勇気を奮い立たせて鏡の前に立つ姿と、壁にもたれかかった遥奈の姉への想いの大きさ、あふれてせき止めることができないほど強い感情の洪水を、この見開きで象徴的に描いています。
もしかすると、わたなれでいちばん泣いたかもしれん……。

 

毎回言っている気がしますが、焦点を当てたキャラクターを読者が心から好きになれるように描いているのがわたなれの大きな魅力の一つだと思います。

ところで、いちばん描かれている主人公であるはずのれな子が心から素直に好きになれないのはいったいどうしてなんだろうね……?

 

れな子が覚えた善意と、悪意

れな子、今回も大活躍でしたね。

年下の中学生相手にボロボロに泣かされたり、手錠をつながれて連行されたり、何度も言い負かされて膝をついたりと、年上の威厳と人としてのプライドは消し炭になっていますが、それでもなんとか頑張っています。これ活躍か?

中学生組との絡みも多く、その割にはあまり尊敬とかは得られてない気がしますが面白かったのでよしとしましょう。手錠のくだりほんと好き。

 

そんな彼女も一応はっきりと成長しているようで、今回のれな子は『人の善意を素直に受け取ること』や『人を頼ること』、『嫉妬の感情』、『悪意』を覚えました。
いや最後のは本当に最悪だな!?

しかしいたって真面目な話をすると(いつも真面目だが)、本編を読んでいく上でこの『悪意』はれな子にとって必要なことだったと私は感じています。

本作の主要人物たちは悪意の対極にあるような人達とはいえ、作品自体が現実に存在する人間の悪意から目をそらしたりはしません。そういったものをしっかりと(作風を失わない程度に)描くことで、フィクションの中にリアルさを描くぞという作者の気概を感じます。

意識的であれ無意識的であれ、悪意を振りまくような人間にならないためにも、れな子は一度、自分の行動や態度、言 の 刃ことばで他人を傷つけるとはどういうことなのかを深く理解しておくべきだと私は感じていました。

 

4巻の感想にて、「彼女の好きなところは人の悪口を言わないところ」だと私は語りましたが、これは因縁深いはずの梨地小町にすら適用されていました。

彼女の話題をほとんど出さない(一人称視点ですら思い起こしたのは今回を除くと1巻と5巻のみ)のは、小町やその周囲の人たちを思い出すことで受ける精神的な苦痛はもちろんあるでしょう。

しかし、ハブした張本人に対する恨み節の一つもないのは、精神的苦痛よりもむしろ彼女を憎む精神的徒労と、他人を憎み傷つけることで自分自身が傷つくことに気づいていたからで、過去の自分自身を嫌い、いつも疲れ果てているれな子はそれを他人にしたがらなかったと受け取ることができます。

 

そして、そんな甘織れな子だからこそ、小町と邂逅して悔恨と悪意と憎しみを彼女と自分自身にじませながら、彼女が銃口を突きつけて撃ち殺したのは梨地小町本人ではなく、梨地小町が覚えている昔の甘織れな子だったと言えます。

 

 弾丸を込める。深海の底にすら届くような、そんな一発の弾丸を。 
「見てよ。わたし、がんばったんだよ」 
 銃口を突きつける。 
 梨地さんの知っている甘織れな子を、撃ち殺すために。

 


わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ! (※ムリじゃなかった!?) 7 より
ここの小町を評した「同じ起源をもつ、別々の生物」という表現がすごく好き

れな子はここで人生においてはじめて、悪意を手に振りおろして人を傷つけますが、独白からもう二度とそれをすることはないと思われます。この『弱いものいじめ』をしない、曲がったことが嫌いな性格は母親や妹と似ている点だと感じました。

いじめていた女を見下すことで優越感にひたってせいせいしたり、弱りきった小町をもっと明確にえぐるような手ひどい仕返しをする人間だったのならば、私はここまでれな子のことを好きになっていません。

彼女の美点は、他人の痛みが分かること。そしてどんな相手にも繋がりを見いだしたり、人の良い面を素直に受け入れることです。だからこそ、大嫌いで二度とかかわらないはずの小町に向かって、最後の最後でこの言葉をかけたのだと思います。

 

「……妹さんに、あんまり心配、かけないようにね」

 

相互理解が絶対に不可能な相手だとしても、小町の妹である湊が、姉のことを助けたいという思いを直感で感じ取ったからこそ、明確に断絶したはずの相手だとしても『妹に心配をかけている姉』というつながりだけで言葉をかけることができる。

彼女はこの物語の主人公としてやっぱりふさわしくて、カッコいい。

私がれな子のことを大好きなのは、今回も変わりませんでした。

 

 顔をあげて、あの日とは違い、わたしは真剣な顔で。 

「わたしは」 

 周囲の視線が突き刺さる。 

 最強の装備は残っていない。 

 わたしにはもう、なにもない。 

 違う。 

 わたしは甘織れな子だ。 

 わたしがここにいる。 

 過去を変えるために、ここに来たんだ。 

 

「行かないよ。行くわけないじゃん」

 

それにしても、本当に……本当に今回のれな子はカッコよかったと思います。

同窓会会場での啖呵は作中随一の見せ場でした。

過去の亡霊を振り払い、大好きな恋人たち、友人らが認め首肯してくれる現在の自分自身のあり方を肯定した。れな子の自己肯定感は、ここに完成したと見ています。
まあこれから先もつまずき不安になって迷ってたくさん悩みまくるのでしょうが。がんばれ☆  それを乗り越えられると、れな子のことを信じているから。あまり心配はしていません。

 

それはともかく、れな子は今回も順調(?)に罪を積み重ねていきましたね。私もう信頼できねえよことの女のことを……。

人の善意を受け取れるようになったり、人を頼ることを覚えたのは彼女の成長の証として素直に喜ばしいですが、問題は嫉妬の件です。お前、また紫陽花さんを悶々とさせたな。

 

「え、えへへ~……。そんなこと言われても、笑顔ぐらいしか出ないよ~……」 

 それなのに、紫陽花さんはよれよれの笑みを浮かべて、ダブルピースを向けてくれる。

 

紫陽花さんにこんなよれ顔ダブルピースさせる女おる???

まったく嫉妬してくれないカノジョにやきもきしている紫陽花さんの乙女心が分からなかったり、「さあ嫉妬してみてください! カノジョであるわたしの前で!お手本を!」とのたまい、あまつさえ紫陽花さんは一切嫉妬しないという勘違い(つまり紫陽花さんが嫉妬していることにまったく気づいていない)など罪のオンパレード。極刑。私、この女のこと嫌い!

 

また、れな子がだんだんと恋する乙女でめんどくさいカノジョらしくなってきたのも、嫉妬が関連していますね。元々めんどくさい女が人と付き合ったらめんどくさいカノジョになるのは自明の理では?

遥奈を説得するために向かうリムジンの中、真唯と過ごすれな子は恋する乙女(自分で『恋する乙女』とか言うな)そのものでした。ようやく真唯からの「かわいい」を照れながらも「ありがと!」と素直に返せるようになったれな子、めちゃくちゃかわいいな…。

 

いやほんと、客観的評価と自己評価があまりにも乖離しすぎては?何言ってんのコイツと何度ぶっ飛ばしたくなったか分からないけど今のれな子はぜったいカッコいいしかわいいしすごいのだから早くつまらない過去なんか蹴飛ばして胸を張って愛してくれるたくさんの素敵な人達の言葉を受け入れて!? とずっと思ってたんですよね。
ようやく、7巻で受け入れることができました。真唯に何度も言われ続けていた言葉を。感涙の拍手。

でもこうやって自己肯定感が上がり続けて調子にのったら、6巻冒頭のようにスキップもどきをしながらお花とイヌに心の中で語りかける怪異みたいな甘織れな子になるんだろうな。きもいな……。

 

れな子の面白ムーブは今回も盛り沢山でしたが特にお気に入りなのが、7巻で婚約発表のニュースを屋上で真唯に問いただす(問いただすという表現がいちばん適切)場面です。なぜかこの場面のれな子は真唯に終始敬語で話しますが、指摘されるまで完全に無意識です。おもしろ。

嫉妬については6巻で、香穂ちゃんとお昼休みに学校のベンチで過ごしているとき、紫陽花さんとイマジナリー・トム・クルーズさんを話題にしてダメージを受けていましたが*2、座学したのなら次は実践……!
ということでれな子に実際に嫉妬してもらいましょう。

 

 か細い声が漏れる。

わたし、すてられる……?

「いやそれは大丈夫! ぜったい! 捨てないから!」

 真唯が珍しく早口で言い放つ。

 

なるほどね。れな子は付き合ってる人に実は婚約者がいるという不信感を抱くと嫉妬がメンタルにダイレクトにきて、か細い声で涙目になっちゃうのね。かわいいね。かわいいなこの女……。ここのフォントが小さくなっているのがめちゃくちゃツボでした。

知らない女性を軽率に褒めてしまった真唯へのれな子の「へー……」というメチャでか感嘆詞も好きですし、真唯からの「好き」を何回も求めるれな子のセリフである「ほんとのほんとのほんとに……? うそついたら、れなこ、ゆるさないんだからね」はもはや誰だよ。メンヘラれな子、正直めちゃくちゃ好きかもしれん……。『めんどくさいメンヘラカノジョれなちんに泣かれて眠れないASMR』を出しませんか? 香穂ちゃん!


わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ! (※ムリじゃなかった!?) 7 より
最初見たときワケのわからない状況でびっくりした。

ここの茶番から、すかさず紗月さんがツッコミ(物理)を入れるのがいつものクインテットという感じがして好き。最近暴力系ヒロインになってきてるな……紗月さん……。
今どき暴力系ヒロイン……? と思いましたがれな子はもっとお灸をすえる必要があると思うのでドンドンやってほしい。

流石に顔面アイアンクローされながらも会話が進行するレベルで暴力が当たり前になってるとは思わなかったけど。
れな子と紗月さんは顔面掴まれてもスルーされるほど周知されている
大親です。最高裁まで争うか!?

 

れな子が面白いシーンを挙げていくとキリがないのでこれで最後にしますが、同窓会の案内ハガキが来たときの暗 黒 面ダークサイドに舞い戻ったれな子が一番面白かったです。

黒いクレヨンで描いたどす黒いぐるぐる目で、工場廃液のような呪詛と怨恨を雑巾のようにしぼりだすれな子、面白すぎる。直前に小町の名前を出されたとは言え情緒不安定すぎるでしょ。

このあと自分の部屋の中で(家に誰もいないのか?)、ムリにテンション上げてよく分からない弁明をマシンガンの如く喋りつくすのが、情緒トランポリンで完全に危ない人ですね。ド級陽キャで、ドキャ。ネーミングセンスの欠片が微塵も存在しなくてすこ。

そのあと気持ちを切り替えるために外出したのに、辿り着いたのは近所のスーパーで、カップラーメンを見ながらウィンドウショッピングに毒づくのかよ。なんなんだよこいつ……。

 

さて、ここで大変申し訳ないのですが今回2万字を越してしまった(あと1万字程度あります)ということで、前半と後半に分けさせていただきました。

後半は明日、更新予定となります。記事を気に入ってくださったら、後半もぜひ読んでいただけると嬉しいです。

ここからどんどんヒートアップしていきます。

 

*1:たとえば紗月さんが真唯を強く思うように

*2:ここの「香穂ちゃんとの四人なら上手くいく気がする」は流石にアウトだし猫かぶった香穂ちゃんの反応が逆にがちっぽくてやばい