はじめてのアイドルマスターだった。
月村手鞠!キミに決めた! 私はモンスターボールスマホをぶん投げ、月村手鞠のSSRをゲットした。私はポケモンアイドルマスターを目指す。
当初、私は単純に面白い女をプロデュースできるという期待と高揚感に胸を踊らせていただけだった。
私はまだ知らない。彼女のライブでまさか、あんなにも動揺することになろうとは。
筆者にきしーP(にきP)のアイマス歴について。
読み飛ばしていい。
- P業は「学園アイドルマスター」がはじめて。
- アイマスの曲はいくつか知ってた。
- アイマスに触れた大きなきっかけは「誰ソ彼ノ淵」のドラマCD。ホラーいいよね。
- 音ゲーができない。めちゃくちゃ下手。
- 好きなアイドルのタイプは樋口円香や斑鳩ルカ。けどあまり知らない。
という感じ。
曲の趣味は、いわゆるEDMやトランスなどの電子音楽。
「Next Life」や「バベル」、「ミラーボール・ラブ」など、アニクラでもよく聴くような有名な楽曲は知りつつもその程度。
「ガールズやアイドル」と「EDMなどのテクノポップス系」の親和性の高さ*1を時代とともに触れて感じつつも、それでも二次元・三次元問わずアイドルという文化に触れてくることはなかった。
これは単に機会がなかっただけで、触れずに来た理由があるわけでもなく、言ってしまえばアイドルに興味が薄かった。
しかし、その時間は唐突に終わりを告げる。
月村手鞠のライブ映像、
「Luna say maybe」と「初」を観たことによって。
月村手毬との出会い
どちらを先に観たか忘れたが、彼女の姿に強く惹かれたことは覚えている。
現在のスマホは、リアルタイムレンダリングでこれほどのモデリングを動かすことができるのかと、主に技術的な面で感心してしまった。
どちらかというと曲の方は、花海咲希の「Fighting My Way」が癖もヘキで大性癖だったのだが、それは一旦置いておくとしよう。
ともかく、月村手鞠との出会いはそんな感じだった。
たしかに学マスをプレイしようと思ったキッカケは月村手鞠だったが、公式サイトなどからキャラクターの内面やバックグラウンドを追っていくうちに、どちらかと言うと花海咲希と花海佑芽の『強い姉妹愛』に惹かれていた。姉妹百合に惹かれるのは人類の性だから仕方がない。
すぐ姉妹百合に傾く
入学試験首席の新入生。勝ち気で負けず嫌いな元アスリート。幼少時から物覚えが良く、なにをやらせても上手にこなす神童だった。妹の花海佑芽とは大の仲良しで、様々なスポーツで競い合ってきたライバル同士でもある。佑芽の才能を誰よりも高く評価し、恐れている。
彼女はとても魅力的なキャラクターで、神童と呼ばれながらも何においても早熟で、自分の限界がすぐに見えてしまい一番になれない。いつか、本物の才能を持った人々に追い抜かれてしまうことを、誰よりも理解している秀才止まりの女の子として描かれていた。
そして、その最大のライバルとして最愛の妹である花海佑芽がいるのだ。妹のことは大好きだが、それでも負けるのは大嫌い。しかし絶対に負けたくないアイドルという分野の実力ですら、いつか追い抜かれてしまうことを内心恐れている。
まるで負けることを運命づけられている、悪役令嬢のような立ち位置の(開発段階では最強のライバルとしてデザインされたらしい)彼女に惹かれ、今まで見たことのない主人公像に心を奪われ、プロデュースすることを半ば決めていた。
しかし、その想定は外れることになる。花海咲希とその楽曲「Fighting My Way」も大好きでいつか必ずプロデュースするので、どうか待っていて欲しい。
私が月村手鞠をプロデュースしようと強く決意したキッカケは、彼女がどうやら『おもしれー女』だということが明かされた、忘れもしない学マス公開直前のお昼頃に公開されたレビュー記事だった。
君は欠点だらけで最悪のアイドル
月村手鞠を先行プロデュースした人の記事を読んで感じたのは、一言で言うなら『最悪』。今では担当Pでなくても知っているくらい、面白くてめんどくせー女だ。
どうやら各レビュー記事の掲載サイト別に、担当したいアイドルのアンケートを事前に取ったらしく、誰にも第一希望で選ばれず(推測ではあるが)このライターに回ってきたらしいのが月村手鞠。
中等部ナンバーワンアイドルと呼ばれていた元エリート。クールでストイックな皮肉屋と思いきや、甘えん坊で怠け者なトラブルメーカーでもある。二面性のある少女。嫌いな自分と決別し、自分自身を好きでいるために、トップアイドルを目指している。
流石にちょっとかわいそうだと初めは思ったが、公式サイトのキャラクター紹介でクールでストイックな皮肉屋で甘えん坊で怠け者なトラブルメーカーと六重苦のバフ・デバフの嵐が書かれているのを見て、プロデュースしようと思うプロデューサーはまれだろう。というか、私も紹介文を見て逃げた記憶がある。
この月村手鞠に対するファースト・レビューの時点で、知れば知るほど、ワクワクとドキドキとハラハラが止まらなくなってしまった。人が推しのアイドルを見つけた時ってこんな気持ちだったのね...! たぶん違う。
期待に胸を膨らませて、はちきれんばかりになった正式サービス開始当日。
この間にも「Luna say maybe」を聴いて笑う体質になったり、月村手鞠のことしか考えられなくなってしまっていた。
まるで彼女に恋する乙女のようだが、私が期待しているのは、アイドルとしての輝きというよりお笑い芸人としての面白さである。はじめての担当がお笑い芸人でいいのか?
さっそく学マスをプレイしていくと噂に違わず、超絶めんどくせー女だった。
初対面でこの尖り具合なのほんと最高
月村手鞠は、普通に話しているだけで睨みつけてくるし(にらみつける)、努力家かと思いきや基本的に怠惰でダイエットはすぐサボって間食するし(なまける)、よくぶつかりそうな勢いで走って突っ込んでくるし(たいあたり)、よく毒づき(どくづき)はするが言ってることと思っていることが真逆の天邪鬼(とくせい:あまのじゃく)である。月村手鞠、もしかしたら本当にポケモンなのかもしれない。初代アニポケで最初の頃、サトシに電撃を食らわせていたピカチュウにそっくりじゃないですか?
よく吠えるチワワとはよく言ったもので、ツンツンしているのは自身の臆病な内面を覆い隠すためのヴェールだが、本人はそれに対してまったく無自覚である。
プロデュースをはじめて秒で剥がれるヴェール
楽曲「Luna say maybe」を「"臆病"とか"じれったい"とか私と真逆だね」とは本人の談。お前の曲だよ! え…! 月村お前…!? 本気で自分のことを"豪胆"とか"清々しい"性格だとか思ってる? ははは、こやつめ。
ウチの手鞠は冗談もうまい。
ストーリー中で月村手毬を表していて好きなのが「Luna say maybe」の一幕。
寮におばけが出ると勝手に勘違いして(誰も「おばけが出る」とは言っていないのがミソ)、ビビり散らかしながらそれでも精一杯つよがるチワワ。
「えっ? お……おばけってこと?」←誰もそんなこと言ってない
友人のことねに「私は怖くないけど、おばけ出るらしいからお風呂一緒に入ってあげてもいいよ」とかのたまう手鞠。あまりにも愛おしすぎる。
そして断られて、臆病なのがバレそうになると「シャワールームで毛虫見たよ!」と捨て台詞を吐いて電話を切る手鞠。あまりにも最悪すぎる。
なんでこんなに偉そうなの???
そうそう、これよ。私はこの人間くさくて超絶めんどくさいアイドルを求めていたんだよ。ほんとか…? 私は、本心では『鬼電してきて電話に少し出なかったら学園中を探し回って、付き合ってもないのに「プロデューサー、浮気したの!?」とか問い詰めてくるアイドル』を求めていた? 勝手に彼女ヅラしないでください。正直、にきPは月村手鞠みたいな奴と付き合いたいとは思わない。それは嘘。めちゃくちゃ付き合いたいしお世話して毎朝昼夕ご飯作ってあげたい~!
「そもそも付き合ってないです」
アイドルってもっと、『完璧超人で誰からも好かれて誰に対しても誠実』かと思いきや、ふとのぞかせる人間らしさのギャップにキュンとくるものなんじゃないの? 誰が『誰に対しても敵意丸出しで吠え散らかす小心チワワだけどなつくと独占欲つよめなアイドル』をプロデュースしたいって言った? 私だわ。
破滅的な輝きをもつ最高のアイドル
一緒に過ごしてみるとすぐに分かるように、月村手鞠はまったくアイドルらしくはない。クールなのは見た目だけで、内面はぼろぼろで欠点だらけで二面性が大きい。
叩けばホコリが出る。というか叩かなくてもどんどんホコリが出る。
アイドルの裏の顔を知るのが、プロデューサーという仕事であるはずだが、はっきり言って手鞠は、最初からアイドルとしての顔を見る機会がほとんどなく、まったくアイドルらしくはなかった。
しかし彼女をプロデュースしていく中で『まったくアイドルらしくない』というのは……、それは少し違っていたと今は感じる。なぜなら、『私がイメージしていたアイドルらしさ』は、きちんと月村手鞠の中に存在していたと言えるからだ。そのイメージは一般的ではないかもしれないが。
月村手鞠と過ごすうちに、彼女は過剰なまでにストイックで向上心があり、ハングリーでエゴイストで、自分だけではなく他人にも同じレベルの努力と研鑽を強要し、相手も自分も、周囲の関係すら壊してしまうような、私がイメージしていた『破滅的な輝きをもつ独善的な最高のアイドル』であることを知った。
アイドルを目指す者としてエゴと矜持がある
彼女が中等部時代所属していた「SyngUp」が解散になってしまったのは、それが月村手鞠自身のためにも、メンバーのためにもなり、苦肉ではあるが最善の選択だと彼女自身が思ったからだ。
このままではメンバーに甘えてだらしない自分になるか、メンバーに自分以上のレベルを強要して、三人の関係が修復不可能なほど壊れてしまうことを悟って、月村手鞠は二人の元から離れたのだと、私は思う。
彼女が中等部で「SyngUp」の仲間と共にひときわ輝いて見えたのは、いつも全力以上の力を出し、自分より実力のあるメンバーに、必死に追いつこうとしていたからだ。
『もっと羽ばたきたいと願って苦しんであがき続ける小鳥』と、『そんなに頑張って羽ばたこうと藻掻かずともいいんだよと諭す鳥籠』。
お互いを想い合って、だからこそ衝突して瓦解してしまった手鞠と美鈴、賀陽燐羽の三人。
最悪な想像をしてしまったP
そう考えた時、暴飲暴食による彼女の体重増加は「SyngUp」を解散後(手鞠が自分のせいだと感じている)に起きているが、(まったく向いていない)孤独にトップアイドルを目指そうとするが故のストレス発散行為であり、同時に「SyngUp」が解散になってしまった罪悪感から来る自罰行動に近い、危うい行為なのではないか? と見ることができる。
よく、体重に対する否定的な決めつけ(体重スティグマ)があるが、体重に関連した事柄は『甘え』が主な要因だとは言えないのだ。*2 それよりも、体質の把握、生活習慣やストレスなどの要因に目を向ける必要があり、プロデューサーによって生活習慣の改善や、ストレス軽減のためのアシストしたのは適切だったと思われる。
自罰的な側面があることは【E End】の中で伺える
まさか、月村手鞠のコメディチックな『体重増えた』という話題でここまで真面目に考察することになるとは、私自身驚きだが、上記の内容は決して冗談などではない。
彼女は、ストレス発散と自罰行為のために、暴飲暴食を繰り返していたという可能性が浮かぶ。
もちろん彼女は食べるのが普通に好きだし、メタ的に見てもそういった重い作風(青の系譜つながりで「如月千早」が浮かぶが)は本作に合わないため、これらの想像は意図されていないはずだ。
閑話休題。
私と月村手鞠は出会う前から、彼女の「クールでストイックな皮肉屋」という印象はもはや消し飛んでいたが(他はともかく”クール”は絶対に間違いだろ)、甘えん坊で怠け者なトラブルメーカーで、しかも自己分析がへたで、性格最悪で、ユニットを組んでも協調性ゼロで、敵を作りやすく、かといってソロ活動でも向いていなくて、セルフプロデュースなんてもってのほかで…。
……やばいな、欠点が無限に出てくる。
……ともかく、そんな欠点だらけでも、アイドルになるために血の滲むような努力を惜しまない、自滅的で自罰的なストイックさを持ち合わせた、破滅的な『アイドルらしいアイドル』の月村手鞠を、彼女と過ごす上で知った。
では、今の彼女が昔のように実力以上の力を出した時の『アイドルとしての顔』を見たことあるのか? と言われた時、私は普段の残念な月村手鞠しか見たことがなかった。
ここに、私が動揺する隙があった。
動揺した理由は
私は、現在の『アイドル絶不調期の地を這ってもがく月村手鞠』しか知らなかった。
このふてぶしい表情こそ手毬だと思っていた
空回りして周囲に迷惑をかけてばかりのトラブルメーカー。欠点だらけで、だからこそ等身大の女の子(アイドル)である月村手鞠のことしか。
何度も公演をくりかえし、ガシャを引き、スキルを上げて、徐々に評価ランクも上がって、難易度プロでもなんとかクリアできるようになっていった。
そして、何度めかの挑戦でようやく掴んだ文句なしの一位。講堂ステージでの『初』。
最初は学園の中庭で、次に屋上で、屋外ステージで、何度も何度も、何度も何度もステージに向かうのを見送って聴いた『Luna say maybe』。
中庭のはじめてのライブでは片手で数えるほどしか人がおらず、「学園祭かな?」と言われた。彼女はとても悔しそうだった。
次に屋上で歌いきった後、どこか曇りを払った表情をしていた。
そして屋外ステージでは、殻を破って新しい一歩を踏み出した、爽やかな表情をしてみせた
そして、学園の講堂ステージに立つ月村手鞠は。
いや、"トップアイドル"の月村手鞠は。
今まで見た、どんな姿とも違って見えた。
今にも倒れてしまいそうなくらい、今出せる全力よりもっと上の120%の力を出し切って、見ているこっちがワクワクして、ドキドキして、ハラハラするようなパフォーマンスを見せる。
月村手鞠に”魅せられる”。
この時、私は激しく動揺した。
手鞠って、こんなに楽しそうな表情をするんだ。
こんな風に心の底から笑うんだ。
こんな清々しくて、凛々しくて、強がりじゃない好戦的な表情を浮かべるんだ。
私は月村手鞠を知った気になっていただけで、会場のファンみんなから声援を受けて、キラキラと輝いて、こんなに楽しそうに歌う本物の月村手鞠のことをなにも知らなかった。
この瞬間、彼女はたしかにトップアイドルで、私の一番星だった。
私はこれから、これ以上に最高のライブを見ることはできないだろう。
涙は流れなかった。見たことのない彼女の表情と歌い踊る姿に激しく心を揺り動かされて。
だけど嬉しかった。彼女がたくさんの人から声援を受けて、誰よりも高く、どこまでも遠くに羽ばたいていて。
親友である美鈴が言ったように、誰かがそばにいなければ、高く羽ばたいた彼女は、いつか無理をし過ぎて落ちてしまうだろう。
それを止めることは、難しい。彼女を支えることは、Pである私にも難しい。
その時は「一緒に破滅する」と約束したが、だからって本当に彼女と心中するつもりはない。
私は彼女をトップアイドルにする。
そのために、彼女と心中なんかしている暇はないのだ。
月村手鞠のプロデュースはまだまだはじまったばかり。
さて、にんじんとシイタケとレンコンその他もろもろが苦手な手鞠に、今日はどうやって気づかれずに食べさせようか。親かな?