Vol.3 3章 -17「憎しみの正体」
聖園ミカの思考回路が謎だ。
今回は前回上げた感想の補填として、「ミカのゲヘナ嫌いなのはなぜなのか?」について考察する。
凶悪な犯罪が起きたら、わかりやすい「動機」を探したがる一般人みたいになってしまったが、この推察はそう的外れではないと自分の中で考えている。
キーワードは3つ。
"トリニティの裏切り者"、"憎しみの合理化"、そして、"慈悲"だ。
プレイ中に予想をメモ書きしていたのだが、それを順番に挙げていこう。
目次
彼女がゲヘナを嫌いなのはなぜ?
①ミカはトリニティ学園が特段好きで、それを汚すゲヘナと関わりたくない
彼女自身が学園を裏切り、その名を汚すように『トリニティの裏切り者』として動いているため間違い。
また、4章では、もはや自分は退学になっても仕方がないと考えており、トリニティに未練があるようには見えない。彼女が恐怖しているのは、先生、そして友人らに見捨てられることである。
②トリニティへの帰属意識から。自らのアイデンティティだと思って保守的になっているためゲヘナを嫌っている。
①から、これも間違い。
③ゲヘナと過去に何か確執があった
そういった過去はまったく語られていないため、ここではなかったと過程する。
④ベアトリーチェに洗脳されていた
ベアトリーチェは「洗脳能力」というものは持っていない。
アリウスには深い憎悪という下地があったからこそ、彼女の洗脳教育は成功したと語られているため間違い。また、ベアトリーチェはミカをミューズ *1と例え、一方的に知っているような口ぶりだが、ミカは彼女と面識はない *2と思われる。
⑤コペルニクス的転回。理由や動機がないのならば、「ゲヘナが嫌いだから」というのが動機ではなく、それに帰結したのだとしたら?
①~④の矛盾を解消するために、「ゲヘナが嫌いである」という理由をミカが作り出したと仮定しよう。
描写が章をまたぐため少し複雑になるが、そのプロセスはこうだ。
1.まず、ミカは純粋に「アリウスと仲直りしたい」から和解の提案を行う。
Vol.3 4章 -19「無限の可能性」
2.アリウス(ベアトリーチェ)に提案を利用され、彼らの協力(武力)を一時的に手に入れる。
3.同時期にセイアという口うるさい存在にムカついていたので、彼女にお灸をすえるつもりで、「アリウススクワッド」をけしかけてしまう。 *3
Vol.3 3章 -17「憎しみの正体」
4.想定外の『セイア暗殺(未遂)事件』発生。
5.セイアが死亡したと聞いて、ミカは激しく動揺する。
Vol.3 3章 -17「憎しみの正体」
6.彼女はティーパーティーの仲間を殺した、「トリニティの裏切り者」になってしまう。
ここからは仮説となるが、ミカは「トリニティの裏切り者」として自らを再定義、自身の憎しみの感情を合理化する。
7.セイア襲撃(未遂)事件後、ナギサは代理のホストとしてトリニティを動かし、ゲヘナとの和解を提案する。
8.ミカは自らを「トリニティの裏切り者」と定義しているため、当然それに反対。トリニティの中枢である現ホスト(フィリウス派)へのクーデターを画策する。
しかし、自分にはゲヘナとの和平に反対する理由がない。
そのため、和平交渉に反対するために『ゲヘナが嫌い』という理由を自ら作り出した。
9.そのあとの「ナギサ襲撃(未遂)事件」などの悪役ロールは、先生方も知っての通り。
Vol.3 2章 -17「そんな世界も(1)」
支離滅裂に思えるが、彼女の一連の行動から見える疑いようのない事実は、『最初はアリウスと仲良くしたかった』、『セイアを殺す気は一切なかった』、『ゲヘナ嫌いにまったく理由がない』ことである。
罪を犯した彼女が受け取った最初の慈悲
では、「トリニティの裏切り者」と定義し続けていた彼女が、そのロールから解放されたのはいつなのだろうか?
少なくとも3章の冒頭では、ナギサに対して意固地なまでに本心を明かそうとはしない。しかし、3章エピローグではナギサに対しても(少なくとも表面上は)素直にふざけた態度を取っている。つまり、3章の間と思われる。
ずばり、彼女が変化したきっかけは、リンチされた時にコハルに救われたことが大きいのだろうと私は考えている。
Vol.3 3章 -16「いくつかの欠片たち」
この場面では、主戦派のシンパがミカを檻から助け、ゲヘナと抗争に乗り出そうとする。しかし、もはや現ホストのナギサが行方不明であるため、ティーパーティーはパテル派優位に進む。
ここから、トリニティ=ティーパーティー(パテル派)と言えるため、「トリニティの裏切り者」である自分は協力する気が起きなかったのだと思われる。つまりこの瞬間まで、彼女は「トリニティの裏切り者」だった。
しかし、ここで転機が訪れる。「トリニティの裏切り者」であったはずのミカに、手を差し伸べて守ろうとしてくれた存在。つまり"慈悲"をくれた存在こそがコハルだった。
これがどれほど大きなことだったのかは、4章「少女たちのためのキリエ」にて、ミカが蓄音機を見て、彼女のことを思い出したことからも分かる。
Vol.3 4章 -23「少女たちのためのキリエ」
このシーンは、割と唐突に挟まれるいるため不可解だったのだが、よくよく見ると、蓄音機から「キリエ・エレイソン」を思って、そこから想起したのが「コハル」なのである。つまり彼女こそ、ミカにとっての”慈悲”だったと言える。
ここでトリニティの生徒であり手酷い扱いをしたコハルに助けられたこと、憎しみの裡を打ち明けて自己矛盾を悟ったことで、「トリニティの裏切り者」としての側面が彼女の中で弱くなったのだと考えられる。*4
まとめ
まとめると、「ゲヘナ嫌いに理由がない」という推測を正しく言い換えるなら、
『犯してしまった罪から逆算して「トリニティの裏切り者」と為った』
『そしてゲヘナと和平を結ぼうとするトリニティに反発するために「ゲヘナが嫌い」という理由を作った、もしくは"使った"』と言えるのではないだろうか。
Vol.3 3章 -17「憎しみの正体」
ミカの思考回路が謎だ。あまりにも不合理でちぐはぐで支離滅裂で、おそらく自分でも分かっていないのだろう。私もミカのことを理解しているとは到底言えない。
しかし、その中でも客観的事実として残るものがある。それこそコハルが身を挺してかばってくれたことであり、コハルが守ったミカの大切なアクセサリーである。そして彼女を想う友人たちとの絆の数々。それを糧にして、今後の彼女には強く生きていてほしいと願っている。あと、手がつけられないからいい加減、暴走しないでくれ。