サブリミナル白昼夢

百合作品の感想・怪文書という名の二次創作。たまに批評

【だれゆり 2巻】ひと子が悪いんだよ ※言われるしなんなら本当に悪い【感想・考察】


ひと葉のお口、すごくひと葉…って感じ&鹿乃愛の内面を知った上で見るとエモい表紙

「普通」とは「正しい」ことではない。
だけど社会はその普通を、社会に属する全員に求める。
人々の持つそれぞれの正しさではなく。社会の上で、共有されたみんなの「普通」を。
そのほうが、人々の摩擦係数は少ないから。

だれがわたしの百合なのか!? (以下「だれゆり」)1巻の時点では、私はまさかここまで主人公のひと葉に共感するとは思ってもみませんでした。
だって、真面目と思いきやたびたび小物ムーブするのにどこか抜けてて雑で、デリカシーゼロだし天然人たらしのくせに大事なことはすぐ忘れるし……というのは半分冗談で。

正直に言うと私は、2巻を読むまで彼女の魅力についてあまりピンときていませんでした。
確かに本当はとても強い心の持ち主であり、誰かの手を引っ張っていく力強さと自分を曲げない頑固さがあるとは感じてはいました。

ただ、彼女がなぜそこまで「普通」になりたくないのかが分からなかったのです。
彼女はたぐいまれなる才能を持つ者、特に京に対して強い劣等感(というより劣等コンプレックスに近い)を抱いていました。

これが1巻の内容で、彼女は普通になりたくない、特別になりたいという欲望から生徒会長になりたい(京に勝ちたい)と敵愾心を燃やします。
しかし本当は気づいていて、彼女との差は歴然で勝てる見込みはないし、そんな圧倒的な京が実は裏で努力していることに気づいていて、心の奥底では彼女の実力を認めています。
ひと葉は、確かに生徒会長になりたいという意志がありますが、その行動原理は平凡という自分を認めたくない(京のような「特別」な人間を認められない)から、生徒会長になることで自分のすごさを証明したいと、小物に見える欲求から生徒会選挙に立候補しています。

つまり他人に自分を証明するため、ここでは特に京に勝つことで自らの劣等コンプレックスを薄めるために、無謀とも言える挑戦をしたり、誇張した自己アピールを繰り返したり、明らかにキャパオーバーと思える頑張りを見せているのです。

ただし、京が特別なのは彼女自身、影でものすごく努力をしていたからで、本当は臆病なのに完璧であろうと裏で頑張っていることに気づいた後は、彼女に対する敵愾心はかなり薄れています。

このように1巻の時点でもひと葉は、特別と呼ばれる相手と関わっていくことで複雑な感情を更に変化させていきます。それは紛れもなくひと葉の成長でしょう。結局、生徒会選挙に勝つという当初の目的を諦めて、完璧であろうとする京への尊敬と憧れを心の中で認めています。

その後、昔のように依存しようと弱さを見せる京の手を振り払って本心を伝えています。今まで積み重ねてきた彼女自身の努力を否定しないために、あなたはわたしにとって特別だと伝えるのです。ここで「なぜ特別になれる(生徒会長になれる)チャンスを捨ててまで、普通であることを選べたのか?」があまりピンと来ませんでした。
この点が、2巻でひと葉の心の裡と過去という形で補足された…と感じたので後述します。

ひと葉は事あるごとに普通になるのが嫌と言いますが、普通って素晴らしいことじゃないしょうか。現代において普通はかなり贅沢なシロモノだと思うんです。
普通になれないからこそ苦しんだり、平凡だから周りの人たちと比較して劣等感を抱いたりする。普通であれば比較されることもない。特別になりたいとも思わないのでは?と。なぜひと葉はそんなに「普通」を嫌がるのだろうかと。私は不思議でたまりませんでした。そしてそれこそが、ひと葉が心の奥底にあったことだったのです。

※ここからは2巻のネタバレを含みます

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